車内での孤独死は訳ありとして告知義務があるのか?買主の性格にもよる?
訳あり物件として買主に告知する義務があるかどうか?これからも当業界でのこの話題は尽きないでしょう。
私自身、勤務時代に売買専門店の営業マンとして働いていたため、数多くの訳あり物件を取り扱ってきましたが、「それはどうなんだろう?」という事案も多かったです。
売主業者の物件が訳(ワケ)ありだった?
以前、中古物件を取り扱っている不動産業者から1件の売却をさせていただきました。
その業者は業界歴も長く、百戦錬磨の社長がいる会社でした。
競売物件も安く仕入れることができていた時代、その社長は中古物件を仕入れ、リフォームをして再販するという手法を取っていました。
そして、その物件を弊社がネット広告を出し、それに問い合わせをしてくれたお客さんが気に入ってくれたというものです。
特に契約・決済と問題もなくスムーズに事が運びました。
それから約1年後、久しぶりにそのお客さんから連絡があり、結構夜遅かったような気がします。
奥様が少し怒った口調で「とても大事な話があるので来てくれないか?」とのことでしたので、心配性な私は直ぐに駆け付けました。
敷地の車内での孤独死は告知義務があるのか?
リビングに通された私は中央にドカンと座っていて明らかに怒っていると思われる奥様と面談、開口一番、「あなたのおかげで大変なことになっていますよ!」と。
事情を聴くと、物件を買う前、当時の所有者が庭先に止めていた車内で不審死を遂げたとのこと。
それがなぜそのようになったかという詳細な経緯は分からないようで、奥様が言うには「案内時に聞いたはずです。『誰も死んでいませんよね?』と。それであなたは『死んでいません』と断言していますよ」と。
私はそのようなことを断言したつもりはなかったのですが、完全に「断定した」と言れたため、「それは覚えていませんが、売主に確認してから私がそう言ったのであればそうかもしれませんが、『建物内では亡くなっていません』という意味だったのかもしれません」と答えました。
奥様の怒りは収まらず、「そのせいで小学生の子供がイジメに遭っている。それはお金では換算できない」とのこと。
私はどうして処理をしたらよいのかを迷いましたが、業者に連絡、「以前の取引の件で事故があった事実は認識していますか?」と質問すると、「いや、それは調査したがそのような事実は確認できなかった」とのこと。
奥様にその旨を説明すると、「あなた達はプロでしょう?2社もそろって仲介に入っているのにそんな事も調べないでよく物件を売れますね!」とご立腹。
私はこのままでは平行線を辿る事を確信したため、一旦辞去し、翌日上司に相談しました。
顧問弁護士にも相談
当時の会社には顧問弁護士がいて、そのことを相談すると、「仲介会社としての一般的な調査義務を怠っていなければ問題なし。判例も出ている」との回答がありました。
売主社長の元へも事の成り行きを相談しに行き、「ちゃんとこの物件は近隣調査を行っていて『何も問題なし』という判断をしているため、気にする必要はない」とのこと。
私は百戦錬磨の社長の言葉を信じ、成行を見守るしかありませんでした。
3者面談での経緯
買主側は宅建協会にも相談をしたようで、「円満に話し合いをしてください」と言われたようで、後日、3者による面談が行われました。
経緯説明は上記の通りで、焦点はあくまでも「調査義務を果たしたかどうか?」ということでした。
売主は「物件調査の際、近隣5,6件の調査訪問をした。そのような事実は確認できなかった。確認できていれば当然報告する義務がある。それ以上の調査をする義務はない」との一点張り。
買主は「少し手を広げて調査していればこのような事はなかった。責任を取ってもらいたい。つまり買戻しをお願いしたい」との主張。
話は約2時間に及び、平行線をたどるしかなく、買主は「協会に話を振るしかない」とのことで、一応の結末。
その後は私も一会社の社員として動向を見守るしかなく、その後の経緯が全く分からずじまい。
何も会社側から報告がなかったことを考えると、買主は売却をしたことも考えられます。
本事案の反省点とすれば
立場が変われば言い分も変わるのが世の常。買主側の気持ちも分かるし、売主の立場も分かります。
買主が気にするのかしないのかにも関わってくるもので、気にしない人は全く気にしない訳ですからね。
しかしながらそれはあくまでも結果論、不動産業者として可能な範囲内での調査義務があります。
ですが、調査できる範囲はある程度決められているもの。
今は個人情報等の関係で調査できる程度や範囲も限られているため、近隣調査に関しては非常に困難を極めます。
ですので、この手の問題は事が起きて、事の重大さに気付いたときに初めて問題になるケースでもあります。
皆さん、気を付けましょう。